2008/7/31 文月三十一日




資格試験の世界にも、やはりいろいろな資格試験があるもので、
有名で受験者が多い資格もあれば、ほとんど誰にも知られておらず受験者もほぼ皆無な資格もある。
今日は、後者の中でも非常にマイナーで、誰も受けない資格試験についてのお話。


毒物劇物取扱責任者という資格はご存知だろうか?
砒素やフッ化水素酸といった「毒物」、硫酸や水酸化ナトリウムと言った「劇物」を
製造、輸入もしくは販売する事業所に必ず選任しなければならない資格者である。

「薬剤師」や「大学で応用化学の課程を履修した者」などは、
試験を受けることなく、毒物や劇物の取扱責任者になることができるが
それ以外の一般人は、この責任者となるためには都道府県が実施する試験に合格する必要がある。

試験区分は「一般」「農薬」「特定品目」の三区分に分かれており、
「一般」を取得すると全ての毒物劇物において取扱責任者となることができるため、
受験者も「一般」が圧倒的に多く、私も5年前に「一般」の試験に合格している。

そして今日が北海道における毒物劇物取扱責任者の試験日であり
私もその受験者の一人なのである。



さて、話を聞いて「あれ?」と思った人もいるだろう。
一般に合格しているお前が、どうしてまた新たに試験を受けるの?と。

ごもっともな疑問である。
既に「一般」を取得している私が新たに試験を受ける意味は毛頭ない。
少なくても通常の思考をする人間にとってはな。

でも、私には受ける理由がきちんとあったのである。


先ほど、
「毒物劇物取扱責任者の試験区分は、『一般』『農薬』『特定品目』の三区分に分かれている」
と書いたが、実はこの中の「特定品目」については、さらに区分が分かれるのだ。
通常の特定品目に関わる毒物劇物取扱責任者の他に、
「内燃機関メタノールのみの取扱に係る特定品目」(以下、「内燃機関メタノール」と表記する)という
試験区分が存在する。

私が受けるのはこの区分だ。


この資格は、数ある資格試験の中でもマイナー中のマイナーなものである。
制度上存在していはするが、受験者は皆無である。
何故ならば我が国には、この資格が活用できる施設が事実上存在しないからだ。
つまり、公的資格でありながら、まったく効力の存在しない資格なのである。

そのため、ほとんどの都府県では、この試験区分に係る試験自体を実施していない。
噂によると、この試験区分は実施しないよう通達が出ているらしいが、
何故か北海道では毎年実施しているのだ。

だから、私は今年こそと思い、この試験を受けたのだ。
毎年毎年受けようと思っていながら、締切を忘れていたり、
他の日程とぶつかったりして受けられなかったが、今年、やっと受けられたのだ。


え?なんでそんな無意味なことに受験料1万1千円を支払ってまで受けようとするのかって?
おいおい、それはこのサイトのタイトルが『“死”格』なのに突っ込むほうが野暮というものだ。

これぞまさに文字通り『死格』である。




試験は午後から始まる。

試験対策は自宅から試験会場まで向かう間のタクシーの中で勉強しただけだ。
つまり勉強時間は15分程度である。
このところマスコミ秋採用試験のエントリーシートや、
大学の試験勉強などが忙しかったため、時間を割くことができなかったのだよ。

まあ、それでも昔取った杵柄じゃないけど、
過去に上位資格である一般を受験し、一発合格しているのだから問題ないだろう。



一時限目。「法規」と「化学」。
こちらの問題については、その他の受験区分と一緒である。
法規は少し忘れた部分があるものの、典型的な規制法令である。
大学で一応とは言え行政法を専攻し、
さらには資格試験の法規の問題を人一倍解きまくっている私にとっては
この程度の法規の問題なら、知らなくても推定で答えられる。

化学だってそうだ。高校時代、一番得意だった科目がそう簡単に衰えますかってんだ。
後から採点してみたら20問中19問正解、
実験器具の問題で一問間違ったが、まあまあだろう。


少し休憩を挟んで二時限目へ。

二時限目は「毒劇物の性質等」および「実地」
実地と言ってもいまや大抵の都道府県ではペーパー試験であり、北海道も類に漏れない。

しかし私は、二時限目の試験について、少し恐怖を感じていた。
この試験科目は、試験区分の物質にあわせた問題が出るのだ。
つまり、一般だと「フッ化水素酸」「アジ化ナトリウム」「蓚酸」「ジクロルボス」など
各種ある毒劇物の中からいろいろな問題が出るのだが、
私が受けている試験区分は内燃機関メタノール、
つまり取り扱える物質はメタノールのみであり、
延々とメタノールについての問題が出ることになる。

この試験科目の問題数は40問、メタノールだけで40題も出題するとなれば
相当突っ込んだ設問があってもおかしくはない。
だから、事前にメタノールの性質などについては、沸点や融点はもちろん
水との混和による蒸気圧降下や屈折率、主要な化学反応や
メタノール中毒が起こったときに体内で起きるアシドーシス反応など、だいぶ突っ込んで覚えておいた。

しかし、試験開始時にこのようなアナウンスがあり、
メタノールマニアみたいな事をしなければならないという考えは杞憂に終わった。
「内燃機関メタノール受験者の方は、試験問題が10問になりますので」

が、良く考えれば内燃機関メタノールを受けているのは当然私一人だ。
何かこの対応は、昔、小型特殊自動車の運転免許試験を受けたときみたいだな。



私らしくもなく、試験会場にカメラを持っていくのを忘れた。
でも、写真がない日記は面白くないので、とりあえずメタノールでも。

この写真のものは内燃機関メタノール用じゃなくて実験用試薬だけど、ちゃんと劇物だって書いてあるでしょ?

・・・・・・なんでこんなものが手元にあるのか、それは聞かないお約束。



さて、せっかくだから「内燃機関メタノール」の試験問題、ここに掲載しておこう。
多分、よっぽどの資格マニアじゃないとお目にかかれないものだから、
Webサイトが数多あると言えど、掲載されているのはここくらいのものだろう。



問1〜問3 メタノールに関する次の記述について、文中の〔   〕内にあてはまる
     最も適当なものを下欄から選びなさい。
   ア メタノールをサリチル酸と〔問 1〕と共に熱すると、芳香のあるサリチ
    ル酸メチルエステルを生ずる。
   イ メタノールは燃料として用いられるほか、〔問 2〕として用いられる。
   ウ メタノールの廃棄方法には、〔問 3〕と燃焼法がある。


 <下欄>
   問1  1 水酸化ナトリウム 2 水    3 濃硫酸  4 酢酸
   問2  1 消毒剤      2 除草剤  3 漂白剤  4 塗料等の溶剤
   問3  1 活性汚泥法    2 中和法  3 希釈法  4 回収法



問4〜問5 メタノール中毒に関する次の記述について、文中の〔   〕内にあてはまる
     最も適当なものを下欄から選びなさい。
   メタノール中毒は、代謝により〔問 4〕を生ずるために発現するが、対症療法と
  して〔問 5〕を投与する方法がある。


 <下欄>
   問4  1 酢酸  2 アンモニア   3 蟻酸  4 メタン
   問5  1 酸剤  2 抗けいれん剤  3 水   4 炭酸水素ナトリウム



問6 メタノールの漏えい時の措置として、最も適切なものを下欄から選びなさい。


 <下欄>
   1 大量の水で希釈し、洗い流す。
   2 中性洗剤等の分散剤を使用して洗い流す。
   3 酸化剤の水溶液で酸化処理を行い、大量の水を用いて洗い流す。
   4 土砂等でその流れを止め、液が広がらないようにして蒸発させる。



問7〜問10 メタノールの性状に関する次の記述について、文中の〔   〕内にあてはま
     る最も適当なものを下欄から選びなさい。
   メタノールは、無色透明で〔問 7〕の液体であり、〔問 8〕に似た臭気
  をもち、火を近づけると容易に燃える。
  沸点は、摂氏〔問 9〕度であり、摂氏20℃での比重は〔問 10〕である。


 <下欄>
   問7  1 揮発性    2 粘着性  3 不揮発性   4 混濁性
   問8  1 エタノール  2 酢酸   3 アンモニア  4 アセトン
   問9  1 17.1     2 39.8   3 64.1     4 105.3
   問10  1 0.332     2 0.791   3 1.251     4 1.781



以上である。まあ、大して難しくはなかったね。
試験終了後、自宅で行った自己採点も十分に合格基準点に達していた。
さすがにネタで1万1千円かけておきながら、不合格じゃあ洒落にならんわな。




家に帰ってしばらく経つと、π氏から連絡があった。
どうやらπ氏も同じ試験会場にいたらしく、(もちろん彼は『一般』を受験した)
「おい、内燃機関メタノールとか受けた奴、お前だろ。
 係員の『内燃機関メタノールの受験者は〜』のくだりで笑いそうになったぞ。自重しろ」
とのお叱りを受けた。

ふふふ、そんなことを自重していたら私の人生、やってられないのだよ。









・・・・・・なんて事を勝ち誇りつつ言っていたのは少し前までの話。
まあこの場合は結果的にそうなっているだけだし、資格の世界の出来事だからともかく、
今は周囲に対して奇異な事をして開き直ることは避けたいと思うようになってきた。

おそらくこれが普通なのだろうが、
なぜ私がこうも判断基準を翻したかは、皆さんの推測にお任せしたい。
(一応言っておくけど、内定取り消しを恐れているわけじゃないぞ。
 そもそもそれを私に恐れさせるような立派な企業の内定は持ってないし。
 私にとっては内定取り消しよりも怖いものってあるんです、はい)