2007/6/10 水無月十日





長い間死格マニアというものをやっていると、
何故か相性がいい資格試験と相性がよくない資格試験と言う物が出てくるみたいだ。

元々から苦手である語学系の試験は別としても、
行政書士試験、そして簿記検定とどうにも相性が悪いようで、
前者は難易度の割には全然合格できないし、
後者はやはり対して難しい試験では無いはずなのに、なかなか取れないばかりか
何故か試験会場にさえ行かずに棄権していることも多い。

そのせいで、2004年に試験を受け始めたのにも関わらず
2007年現在、未だに2級すら取得できていないと言う妙な事が起きている。
予定では、2005年度末くらいには、取得しておくつもりだったのに。

時は無限ではないし、いつまでも今の状況が続くわけではない事は、既に嫌と言うほど感じている。

そして今日もまた簿記2級の試験日である。
この先、1級、そして税理士とステップアップしていく事を考えると(ちょっと既に順番がおかしいが)
こんなところで停滞している事など許されないのだ。
よって今日の試験を落とすわけには行かない。

しかし、相変わらずこの試験には何かがあるのか、万全の状態では受けさせてくれないようだ。
試験1時間前の12時30分、視野に不思議な光が飛び始める。

偏頭痛の発作の予兆である。
今はまだ良いが、今の時間に予兆があると言う事は
頭痛の発生時間が試験時間に直撃すると言う事だ。
今までで最悪の試験環境で戦う事になるかもしれない。
予想通り、白石本通にある札幌商工会議所付属専門学校に到着した時には、既に症状が出始めていた。


体調が悪くてもカメラを手放さないのが私たる所以。
しかし、いつもとは異なりプログラムでいい加減に撮影しているようである。


と言う事で、今日の試験においては、もはや試験問題など問題じゃない。自分の体調との勝負だ。
しかし、どうしても計算が必要になるこの試験で、偏頭痛はかなり過酷だ。

実際、工業簿記からスタートしたが、条件はあまりにも悪かった。
文字を読もうとすればするほど、視界が歪む。
視野の一部分が欠けているので、問題文をきちんと読めない。
ただ機械的に視野が虫食いになっているだけならまだ良いのだが、
意識を集中したところが中途半端に見えなかったり、
文字列を文字列と認識できなかったりと、問題を解くのに支障が出るような視覚異常ばかりである。

さらに、考えようとすればするほど、頭痛が激しくなる。
そもそも偏頭痛の症状が起きたときは、光や音の刺激を避け、
静かなところで安静にしているべきなのだが、
試験中と言う事で、頭をフル回転させ、電卓を叩いて必死に計算しないとならない。
そんな事をすれば、尚更症状は悪化するのである。

前に偏頭痛の発作が起きたときの症状くらいなら、
精神力で何とかなるかと思ったが、あの時は暗くて静かな場所で
おとなしく寝ている事ができたからあの程度で済んだのだ。
今日の症状は、あのときの比じゃない。

試験会場から出て休めば、この辛い症状は幾分緩和するかもしれない。
しかし、試験会場から出ればそこで試験終了、
合格は11月の次の試験にまた持ち越しになってしまう。それは嫌だ。
ぎりぎり70点でもいい、今回で合格したい。
しかし、この体調では厳しいかもしれない。
そもそも文章読取速度、計算速度、筆記速度共に大幅に低下している。
こんな状態では試験時間中に解答が完了しないかもしれない。
どうせ不合格になるのなら、さっさと棄権しても一緒だ、
こんな苦痛を味わい続ける時間が少しでも短い方がいい。
でも、やっぱり合格の可能性を自ら潰す、退場と言う行為を行うのは・・・・・・。
試験を途中で諦めたら、未来の私は間違いなく今の私を非難するだろう。

そんな事を考えていたが、時間の経過と共に益々頭痛を始めとする症状は酷くなっていく。



そして試験中、過去の苦しかった試験の記憶が蘇って来た。

数年前のエネルギー管理士(電気)試験、発熱が酷くて試験会場に行くかどうか、悩んだっけ。
でも前年度の課目合格のおかげで、午前の2科目だけだったから勝負する事に決め、
その2科目、特に「電気設備及び機器」の課目に集中力を全開にして何とか合格を勝ち得たっけ。
試験終了後、隣のおっさんとマークシートを横目で見比べ合い、
一致する箇所が多かった事にお互い安心したあの試験はいい思い出だ。

腹痛により試験中に何度かトイレに立った試験もあった、
睡眠不足でフラフラになりながら合格した試験もあった、

合格さえしてしまえば、そういうときの試験の辛さなど、忘れてしまう。
だから、この試験だって後から振り返れば、この苦痛は大したことが無いのかもしれない。


そう考えて見たが・・・・・・精神力で何とかなるレベルじゃねぇぞ、これは。

目を見開いているのも苦痛なので、できるだけ目を瞑り頭の中で処理するなど色々工夫はした。
しかし、先ほどから強烈な吐き気が襲ってくる。
何とか工業簿記は終わらせた物の、既に電卓を叩く気力を振り絞るのがやっとだ。


も う だ め ぽ


試験開始1時間後、我ながら良く粘った物だが
この状態では、最後まで粘っても合格は無理と判断、
さらにこれ以上の続行は、他の受験者に多大な迷惑を及ぼす恐れが濃厚である。
自らの体調不良によって他の受験者を巻き添えにするのは、死格マニアとしての尊厳に関わる。

私は無言で手を上げた。

「すみ・・・ま・・・せん、体調が・・・・・・よくないので退出を・・・・・・」
「試験会場には戻れませんが、よろしいですか?」
「は・・・い・・・」

すぐさま試験問題等を鞄にぶち込み、試験室を出た。
この試験はどうしても時間が必要になる試験なので、こんな時間に途中退出する人間はまずいない。


試験室から出て、床に転がり込むように倒れる。
一気に今まで我慢していた反動が来た。何とか這って移動するも
気持ち悪い、極限まで気持ち悪い・・・・・・。
そして・・・・・・。



----------ピンポンパンポーン・・・・・・暫くお待ちください・・・・・・。



ここは・・・・・・。試験室前の床、か。
あ、床に寝てるんだ。動くと気分が途端に悪くなる。
あら、このゴミ箱、ペットボトル専用だったんだ・・・・・・。
清掃業者の人には悪い事したな、でもごめん、不可抗力なんだ。

・・・・・・床で寝ているのもおかしいから、椅子で寝よう。


ふう、また不合格確定か。・・・・・・悲しいな。
そして悔しいな、これがまだ発熱とか腹痛なら、戦えたのに。よりによって・・・・・・。
これは涙?・・・・・・涙。試験放棄よりも辛く苦しいのは何故だろう。

・・・・・・。
今は何も考えたくない。考えればまた頭痛がする。

さて、少し落ち着いてきた。
この体調なら、何とか試験続行できたんじゃないか?

いや、少し横になったから、この状態まで回復したんだ、やはりあそこでの判断は止むを得なかった。

でもこの症状、きっと夜には直るだろう。
そのときの私は、多分思うだろうね。何であの一時の苦痛を乗り越えなかったんだって。
だけど、そのときの私は本当に限界だったんだ。だから責めないで欲しい。

う・・・・・・第二波がきた。余計な事考えるから。

・・・・・・。

・・・・・・しばらく動けそうにもないな。


その後、小康状態になるたびに少しずつ移動して、
試験会場隣の『東白石まちづくりセンター』に入り、2階の使われていない和室に勝手に入り横になった。

後は、何も考えずに、休む。





ふと気がつくと、既に17時を過ぎていた。試験は既に終了している頃だ。
まだ頭は痛いが、とりあえず普通に動けるようにはなったみたい。

そうか、今日も終わってしまったんだな・・・・・・。



「運も実力のうち」だし、「体調管理も試験のうち」だから、
今回のようなことがあろうと、不合格は不合格なのだ。

万全に整えたつもりでも、このようなことは起き得るのだから、
ましてや準備が不十分な状態で戦いに挑むなど言語道断、
これから夏に向けて資格戦線が続くのだから、それだけは肝に銘じておこう。