2007/12/7 師走七日





昨年に続いて北海学園大学法研究会の模擬裁判を見に行く。

昨年のテーマは、“付近住民とのトラブル”と“裁判員制度”だったが、
今回のテーマは“痴漢冤罪”と“裁判員制度”である。


会場であるかでる2.7に行くと、ちょうど始まるところである。



今回の事件は典型的な痴漢冤罪事件なので、説明する必要もないと思うが
大学内のポスターで概要を知ったときからずっと気になっていた事が1つ。


ただの痴漢事件が裁判員制度の対象にはならないぞ。


裁判員の参加する刑事裁判に関する法律においては、
二条において、裁判員が参加することとしている事件を次のように定めている。

1 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮に当たる罪に係る事件 
2 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、
  故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。) 

生の条文を見たい方はこちら



実際に裁判員制度の対象になるような事件。裁判所ホームページより転載


これを見る限りでは、裁判員が一番取り扱う可能性が高いのは、強盗致傷事件か。
強盗絡みは他にも、下の方に強盗強姦と強盗致死があるので
裁判員として選ばれると、約4割の確率で強盗事件と対峙する事になるな。
(ちなみに事後強盗の規定があるので、最初は窃盗でも
 逃亡するため、盗品を取り返されるのを防ぐため、証拠を隠滅するために暴行した場合は強盗罪と一緒だ)

強姦致死傷、強制わいせつ致死傷、強盗強姦、集団強姦致死傷の、
性犯罪と対峙する可能性も2割、意外と高いのですな。

ところで、強制わいせつ致死傷よりも条件がより限定される筈の強姦致死傷の方が
件数が多いというのはどういうことだろう?少し気になるな。

その他の中身が気になるが、二条の内容に当てはまりつつ現実的に考えられる罪としては
現住建造物浸害(現に人が住んでいる建物等を水浸しにする)や汽車転覆等及び同致死くらいしか思いつかんな。


模擬裁判中の様子。相変わらずセリフの無い人たちは暇そうだ。


会場には他にも新聞会さんの撮影者が来ていたが、きちんとカメラを使いこなせていないようで、
スピードライトを使いたいわけではないのに自動的に立ち上がるストロボに困惑していたり
測光機能を使いこなせていないのか、異様に長いシャッター音が鳴り渡ったり。
私も本来人に指導できるような腕ではないが、見るに見かねて忠告するのであった。


しかし相変わらず今年も部員が多いなぁ。百二十余名を数えるとか。
尤もこの写真には4年生はいない。4年生は文字通り引退しているようだ。(会場には遊びに来ていたが)
1年生が表舞台に立ち、2年生3年生は裏方で、4年生は傍観者か。
何か、うちとは全く正反対のような気がするなぁ。

本来のサークルのあり方からすればどっちが望ましいんだろうね。
まあ活動目的やそれぞれの慣習などもあるし、一概には言えないか。

法研究会の場合、対外的な活動はこれだけだけど、
組織内部では法学部の試験の過去問題の共有とか、定期的な親睦会の実施だとか色々やっているようだからな。







さてさて、最後にもしかしたら役に立つかもしれない痴漢冤罪回避法でも載せておこうか。
しかしあくまでこれは、“理論的な方法”に過ぎないので、
実際にそういう状況に置かれたときに使った場合、どうなるかは未知数だが。
(読み物程度に思ってくれれば幸いだ)



まず最初に1つ確認しておかなければならないのは、駅事務室に連れて行かれたらほぼ終了だと言う事。
そこから先、まず間違いなく警察がやってきて、そのまま現行犯逮捕として処理されてしまう。

警察官は「やっていないのだから、自分が誠意を持って話せば向こうもわかってくれる」
こういった性善説に基づく考え方は捨てないと駄目だ。

相手方は、此方を疑って犯罪者に仕立て上げるのが仕事であり、
完全に此方とは敵対しており相容れない存在くらいに思った方が良い。

(ちなみに私の日記においては、何度か警察を呼ばれたり、派出所まで連行されている場面があるが
 あれは私に“違法性”は無いのにも関わらず相手が馬鹿で話が通じないため、
 やむなく警察官に解決の助力を願っているというわけであり、本稿とは容態が異なる)

そしてもし仮に警察官が理解ある人間だったとしても、無用な時間を消費せざるを得なく、
弁護士などを使うことにもなれば費用も係るわけで、早期解決の手段としては適さない。


となれば答えは1つ。さっさとその場で決着をつけてしまおう。

まず最初にしなければならない事は『その場で名刺および身分証明書を提示し、連絡先を明らかにする』事だ。

「私は痴漢行為などしていません。
 あなた方が行おうとしているのは私人による現行犯逮捕ですが、
 そもそも現行犯逮捕の制度は、現に何らかの犯罪が行われたが、
 このまま逮捕状が発行されるのを待っていては、
 犯人が証拠隠滅したり、逃亡したりする虞がある事を理由に作られたものです。
 本案の場合、ここで現行犯逮捕しなかったことによる証拠隠滅の虞も無く、
 また私は身分を明らかにしているため逃亡の虞もありません。
 よってここで私を逮捕、拘束する事は逮捕監禁罪に当たる可能性がありますよ」

まあ最初はこんなものか。
相手がどれだけ法律に詳しいかわからないので、最初は刑事訴訟法の規定などは持ち出さない方がいいと思う。
そして厳密には駅員や群衆が連行したからといって、直ちに逮捕監禁罪を構成するわけではないのだが
“可能性がある”と言うのは嘘ではないし、そういうことによってリスクを軽減するわけだ。


もしその場にいた誰かが多少の法律の知識を持っていて、論争になりそうな場合は次のカードを持ち出す。

「刑事訴訟法217条では、軽微な事件において
 犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合にのみ
 現行犯逮捕をする事を認めています。
 よって私は住居および氏名を明らかにしており、逃亡する虞もないため、現行犯逮捕することはできません」

 参考
刑訴法第217条[軽微事件と現行犯逮捕] 

三十万円(略)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪の現行犯については、
犯人の住居若しくは氏名が明らかでない場合又は犯人が逃亡するおそれがある場合に限り、
第二百十三条から前条までの規定を適用する。 


万一、相手方がこの条文を知っていて、
迷惑防止条例違反が刑事訴訟法217条に定める軽微事件に当てはまらない事を指摘してくるようならば
いよいよ条文ではなく判例通説カードを持ち出す。

「刑事訴訟法217条を文理解釈するとそのような解釈もできますが、
 この条文の解釈は、たとえこの条件に当てはまらない事件であっても
 身元が明らかな人については、逃亡のおそれありとして逮捕の必要性があるとはいえないと言うのが判例通説です」

 参考 昭和62.7.21山口地判
「現行犯逮捕の場合には刑事訴訟法199条、同規則143条の3は準用されておらず、
 令状による逮捕の場合と異なり私人もなしうるけれども、このことから直ちに、
 現行犯逮捕の場合においては逮捕の必要性を要しないとの結論を導き得るものでなく、
 逮捕が人の自由を拘束するという重大な苦痛を与えるものであることに鑑み、人権保障の見地から考えると、
 令状による逮捕と現行犯逮捕との間にこの点において異なった扱いをすべき理由はなく、
 現行犯逮捕の場合に限って、罪証隠滅の虞れも逃亡の虞れもないのに身柄を拘束できるとする根拠は見いだしえない。
 そして、右の点からすると、刑事訴訟法217条は、軽微事件の現行犯逮捕については、
 罪証隠滅の虞れを理由とすることは許されず、逃亡の虞れがある場合にのみ許されることを規定し、
 現行犯逮捕の場合にも逮捕の必要性を要することを前提とした規定であると解するのが相当である。
 従って現行犯逮捕においても逮捕の必要性を要するが、
 現行犯の場合は、犯人の氏名、住所等の身元関係が明らかでないのが一般であるから
 逮捕の必要性は事実上推定されることになる」

ここまで言い切る奴を相手に、それ以上の理屈をこねて連行しようとする奴はそうそういないはずだ。
もちろん任意での同行を求められた場合は、任意なら拒否する旨を伝えればよい。


埼京線に設置された女性専用車。
当初は痴漢対策が目的だった女性専用車だが、
最近では一部においてそれ以外の目的としたものも見受けられる。
尚、女性専用車は痴漢冤罪対策においては何らの意味を成さない。


これで素直に終了すれば万々歳だが、もちろん、これだけで相手が引き下がるとは到底思えない。
尤も初っ端でこれだけの先制攻撃をかましてやれば相手も、
これだけの武装理論をしている奴を相手に自分の思い通りの展開で事を運べるとは思わないだろう。

そこで歩み寄りの余地が出てくる。

此方としては、無実の罪を着せられる事に直結する駅事務室連行はなんとしても避けたい、
駅員としてはこのまま罪を犯した(と駅員の立場からすれば考えられなくもない)奴をそのまま帰すのは避けたい。

何故駅事務室に連行されると厄介かと言えば、密室で事が進んでしまう事、
そして一連の流れによって警察へ連行される事がほぼ確定的だからだ。

ならば妥協点は“その場で被害者や目撃者を自称する人物、駅員などと話し合う”事だろう。
駅事務室などと言う密室などではなく、公の場で公明正大にやってしまえばいい。
こちらはやっていないのだから、基本的には多くの証人がいればいるほど有利だ。

「あなた方の立場も理解できます。しかしこのまま駅事務室に行くということは、密室で処理されると言う事であり、
 過去の例などを鑑みても、そのまま勝手に犯人扱いされ、罪を認めるまで留置場に入れられることになります。
 それは此方とて容認できる事ではありません。
 ですから、もし私から話を聞きたいのであれば、多くの目撃者や承認がいるこの場においてお願いします。」

「先ほど説明したように、私を強制的に拘束する事はできません。
 もしそれでもあなた方が不当な拘禁を行うのであれば、それは私に対する急迫不正の侵害と考えられ
 私がその不当な拘禁から脱出したとしても、やむを得ずにその侵害を排除したとして、
 正当防衛が適用される可能性が十分にあります」

「駅事務室のような密室でなければ話せないって、何か証人がいっぱいいたら都合が悪い事があると言う事ですか?
 こちらにはやましい事は一切無いので、誰かいようと全く問題ないんですがね」

「駅員さん、その判断は会社の判断ですか?それともあなた個人の判断ですか?
 これがもしあなたの判断なら私が犯人じゃなかったとわかったときに責任とるのはあなた個人と言う事になりますよね?
 会社の判断だと言うなら、今から私が御社に電話して確かめてよろしいですね?
 どちらにしろ後ほど責任の所在を曖昧にされては困るので、
 きちんとどちらの責任かが明確になるように書面で文章をしたためてもらえますか?」


いつまでも責められる側であってはいけない。
こっちが向こうに食って掛かるくらいで無ければならない。
この際に相手を威圧してはいけないが、こちらが弱気になってもいけない。


なんだかこの調子で書いていくと長くなりそうだから、そろそろ短めにするが、
大体どういう方向に進行させればいいのか、わかるだろう。

他に重要な点としては

・被害者を自称する人物や目撃者を自称する人物、駅員、周囲にいた人たちの身分証明書を確認し、連絡先を貰う。

 証人を多く確保しておく事は最悪後ほど争う事になった場合に有利だし、
 こうやって被害者や目撃者などを撤退できない状況にする事によって、
 「お前は自分の発言に最後まで責任持つ覚悟があってこの件に首突っ込んできてるんだな?」
 と牽制する事ができる。


・被害者と目撃者は、必ず別個に取り調べる事を要求する。

 帳尻合わせができなくなるので、お互いの発言に矛盾が出る可能性が増える。


・万一埒があかなかったり、強制的に連れて行かれそうになったら、こちらも警察を呼ぶ。

 どうせ駅事務室に連れて行かれたら警察来る事には変わらないんだから、こっちが先にやってしまえ。
 警察には、無実の痴漢の疑いをかけられ駅員に不当逮捕されたとでも言えばいい。
 相手方に“痴漢の被疑者を確保した”として警察を呼ばれるよりも有利だ。


・できるだけ多くの人間を巻き込め。密室で決着させるな。


・暴力と逃亡、誹謗中傷や罵詈雑言は絶対にするな。


痴漢行為をやっていないと言う前提があるならば、
被害者のパターンとしては、
被害にあっていたが犯人を間違えた、被害にあったと勘違いした、被害にあっていないが虚偽の申告をしたの3通りが
目撃者のパターンとしては、
痴漢行為は確認したが犯人を間違った、何らかの原因で無いはずの被害があったと信じしむるに至った、
被害を確認したわけではないのに目撃者として名乗り出た、
被害者と結託してあらかじめストーリーができていたの4通りが考えられる。

被害者若しくは目撃者が善意ならば、何故やったのが自分だと思ったのかを追求し、
悪意ならば、そもそも行為があったとどうして言えるのかを追求して相手の論証を壊す必要があるが、
あとは本当にケースバイケースだな。


結局後書きが非常に長くなってしまったが、よく考えればこれを万人が実際に実行できるとは思えんな。
普段から「約款見せろ!」「それは誰の判断だ!」「委任状確認させろ!」等と対決する事を厭わず、
さらにはそういった実戦経験があるような人間ならともかく、
普段そういうこととは無縁な人には、なかなか難しいだろうな。

(もちろん、ここに書いてある事はあくまで私の知識経験に照らして書いた文章なので、
 もしかしたら法律の解釈に誤りがあるかもしれないし、何処かに弱点があるかもしれない。
 ここに書いてある内容を信じ、実行していかなる事が起きようとも、私は責任を負わないからね)

ただ、これが躊躇無くできる人間は、こういった争いの時は勝てるかもしれないけど、
それ以外の時には間違いなく周囲の人たちに非常に不愉快な思いをさせている人だろうね。

能ある鷹は爪を隠す、やはり普段はなるべく平穏に、
しかしいざと言うときにはこういう技を駆使して立ち回れるようになれば理想だなぁ。