2007/1/26 睦月二十六日




デジタルデータよりも銀塩写真の方が保存性が良い、こう主張して疑わない知人がいる。
銀塩写真は100年以上前のものが普通に残っているが、
デジタルデータは20年前のものすら現在は読み取れるか怪しいという理由らしい。

20年前に8インチや5インチのフロッピーディスクに保存したデータを今読み取ろうとすれば、
おそらく磁気消失で読み取ることはできないだろうし、
仮に読み込むことができる状態にあったとしても、
現在において8インチや5インチのフロッピーディスクを読み取る装置を確保するのは困難であり、
またそれを使うための端末の入手もなかなか難しいだろう。
写真、もしくはネガならば、20年の歳月が流れようがほとんど変わらぬ姿で残っているし、
時代についてこれなかったレトロな機器など使わずとも、見ることができる。
彼はこのことを引き合いに出して、ネガの有用性を説く。


しかし私は逆に、デジタルデータの方が保存性に優れると考える。

もっとも、ただ単にデータを記録した媒体を放置するとすれば、
どんな媒体を使おうが、100年にわたって保存することは難しいかもしれない。

だが、デジタルデータの強みは、オリジナルと寸分違わぬコピーをいくらでも作成できることである。

銀塩写真の場合、マスター、つまりネガはひとつしか存在しないため、
何らかの理由でそれが滅失してしまえば御終いだ。
デジタルデータは違う。複製さえしておけば、オリジナルが消失したとしても、
複製はオリジナルとなんら変わることは無いのだから、データは生き残る。

また、技術が陳腐化し、未来の段階で読み取れなくなる可能性についても同じ事が言える。

データを保管する媒体については、必ず過渡期が存在するため、そこで新旧交代を行えばよい。
例えば今現在、3.5インチフロッピーディスクが読み取れるパソコンは少なくなっているが
数年前には、FDドライブとCD−R/RWドライブを両方読み書きできるマシンが主流だった時代があった。
この段階で、古い技術であるフロッピーディスクから、
より現在の主流であったCD−Rへとデータの移転を行っておけば、
今現在でも、ほとんどのパソコンにおいて取り扱うことができるのである。
ちょうど今の時期も、CDからDVDへの世代交代を行う時期かもしれないね。

またフォーマットの問題もあるが、
BASICやMS−DOS、PC98シリーズから今現在へと続く流れと、
今現在から未来への流れは、技術の蓄積や完成度、
さらには標準化の考え方が普遍的になっていると言う点で異なるため、同列に論じるのは乱暴だろう。
よっておそらく物理フォーマット形式はFATやNTFS、
画像形式のフォーマットはBMPやJPEG、PNGやTIFFなどのまま
発展・成熟していくものと考えられ、そこで無用に不安を感じる必要は無いと思う。

唯一危惧しなければならないのはRAWで撮影した画像だ。
RAW画像のデータフォーマットは現在各社各機種で異なり、
現像には対応したソフトウェアが必要である。
よって対応したソフトウェアのリリースが終了すれば、
データは生きているのに写真にできないと言う事態は考えられる。


つまり銀塩とデジタルにおいて、保存性を確保するための方法が異なるわけだ。
銀塩は、何もせずに放置しておくだけで時の流れに乗り続けることができるが
デジタルの場合、時を越えていくためには人の手による手助けが必要だ。
その代わり、きちんと手入れさえすれば、形あるものいつかは壊れると言う物質的な限界を超えられる分、
銀塩よりも長生きさせることができるだろう。

そう考えると、軽やかにしか写真をやらない人間こそ銀塩の方が良いのではないか、という逆説的な発想が生まれる。
デジタルカメラの方が手軽かつ簡単に写真を撮る事ができるため、
ライトユーザーにはこちらの方が良いと考えられがちだが、
デジタル写真を残すためには上述したように不断の努力が必要である。
本気で写真をやらない人間が、そのような事に手間をかけようと思うだろうか?
それに対して銀塩写真はメンテナンスフリー、いったん写真屋に出して戻ってこれば
抽斗の奥深くでずっと眠らせておいても、火災などに見舞われない限り時を越えていくのである。



以上の議論を踏まえた上で、どうすればデジタル写真の保存性を
限りなく高めることができるかを考えてみた。

まず一番最初に考えなければならないのは、収納する器についてだろう。
デジタル写真は、具体的な物質・物体として存在するわけではないが
データである以上、何らかの媒体に記録されなければならないが
データを記録する媒体と言っても、非常に多様多種に富む。
広義には紙、石版、竹簡、粘土などもデータ記録媒体であるが、
ここでは狭義の意味でのデジタルデータ記憶媒体、
例えばハードディスク、光学メディア、フラッシュメモリなどの各種デジタル記憶媒体について考察する。


まず最初に考えられるのは、大容量かつ書き換えが高速で取り扱いやすい、ハードディスクドライブだ。
確かに沢山のデジタル写真を保存するのには最適なツールと言える。
しかしハードディスクドライブは、用途の重要性を鑑みると製品寿命はとても短いと言える。
個体によってバラつきがあるものの、3〜5年間程度がHDDドライブの寿命であり、
写真を長期的に保存しようと考えるなら、不満が残る数字である。
また衝撃にも弱く、落下等によってデータが破損する危険も持ち合わせている。


次に現在のバックアップ手段としては主流であるDVD。
4.7GBの容量は、普通の人ならばデジタル写真を保存するには十分な容量だろう。
(通常人とは比べ物にならないくらい写真を撮影する私の場合、
 デジタル写真保持量は今日現在、DVDで38枚という凄まじいことになっているが。)
さて、−R、−RW、−RAM、+R、+RWなど、様々なフォーマットがあるDVDだが
データの保存に適しているのはどれだろうか?

−R及び+Rにおいては、皮膜の記録材料としてアゾなどの有機色素材料を使用している。
詳しい技術的な説明は省略するが、光、とくに紫外線の影響を受けやすい。
そのため直射日光下では、データの消失の危険がある。
−RWや−RAMにおいては、有機色素材料ではなく金属材料を使っているため
光による影響は少ないが、その代わりに熱による影響を受けやすい。
この点ではどちらも一長一短である。
これは私見だが、DVDの中でも保存性という点では、DVD−RAMメディアが一番優秀だと思う。
DVD−RAMには、エラー領域があってもそれを使わなくても済むように、予備領域が設けられている。

またメディアの製造メーカーや、書き込むドライブについても考慮しなければならない。
例えば、値段が安い粗製濫造メーカーのメディアは、
きちんと作られたものよりも圧倒的に寿命が短く、
比較的すぐにデータが消失すると言うことは良く知られている。
長期保存するなら、三菱などの国産メーカーのメディアを使用したほうが良いだろう。
少し高いが、こういう物もある。森メディア

また、ライティングするドライブ、焼きこみ速度、使用容量なども大事だ。
あまり高速での書き込みは品質を下げるし、DVDの外周付近はエラーが出やすいので
目いっぱい書き込まず、少し容量に余裕を持たせておくといいようだ。


HDD及びDVD以外にデジカメ写真を保存しておくのに便利そうなメディアは、
MO、Zip、BD、フラッシュメモリ、ストリーマくらいか。

光磁気ディスクのMOは、データの保存性には優れているが、
いかんせん取り扱えるドライブを持っている人が少ない。
この規格がいつまで使い続けられるかもわからない。

Zipはさらに所持者少なし。
私はZip750を一時的にデジカメデータ保管使うことはあるが、手持ちのメディアが少なく、
メディアの汎用性が異常に低いため(私の周囲で私以外にZip750のドライブ持っている人を見たことがない!)
あまり出番は無い。(無理やり作っているようなものだ)
多分、今から5年後とかにはドライブは骨董品になっているでしょう。

BD(ブルーレイディスクは)はHD DVDと共にDVDの後継規格を争っているが、
DVD以上に大容量で、サイズはDVDと変わらない。
しかしまだ登場して間もない規格であり、
機器購入のイニシャルコスト、メディア購入のランニングコスト共に割高である。
また、HD DVDとの規格争いを制することができるかはわからない。
メディア1枚で25GBの大容量は、私のようなヘビーユーザーには便利だろうし
もし予算の問題が無ければ是非とも導入したいが、
一般ユーザーが、デジカメデータで25GB(500万画素クラスのJPEG画像で約1万枚)も使うとは思えない。
デジカメデータ用には少しオーバースペックだとは思う。

大容量化が進むフラッシュメモリは、将来有望なメディアの一つだ。
特にSDメモリカード系列は、DVDと共に
今現在主流のメディアの中で、もっとも遅くまで現役を続けると思う。
ただ静電気によってデータが消える可能性、またはその小ささゆえに紛失するリスクを考えると
長期保管にはどうかな?とは思う。

でも、今でも人によっては、デジカメ用メモリカードを保管用に使っている人がいる。
SDメモリやコンパクトフラッシュを、消耗品であるフィルムのように使うらしい。
つまり、通常の場合ならばデジカメ用メモリは、
空き容量が無くなったらデータを消去したり、パソコンに移転したり、DVDに焼いたりするものだが
こういう人たちは、メモリがデータでいっぱいになったら、新しいメモリカードを買うらしい。

最初この話を聞いたときは、ずいぶん金持ちだな、と思ったが
今、2GBのSDメモリカードが5000円で買え、
これ1枚で数百枚は撮影できるわけだから、フィルムと比べるとそこまで高いわけでもないんだな。
写真をそこまで撮らない人なら、これもありかもしれない。

最後にストリーマだが、これはデジカメデータを扱うには正直やりすぎだと思う。
大容量かつ安価だが、普通の人はストリーマを扱う機器など持っていないし
ランダムアクセスもできないから、非常に使い勝手が悪い。
仕事でデジカメを使っていて、定期的に数十ギガバイト単位でのバックアップを行う、
というのならば良いかもしれないが。

さて、データの入れ物となるメディアについてはこれくらいか。
ちなみに私の場合は、まずHDDにデジカメデータを入れていき、
約4GBになるたびにDVD−RとDVD+Rに焼いていく。
バックアップは念のため2つだ。


次にバックアップやRAID、リカバリレコードなどのソフト的な面での
冗長性強化について書こうかと思ったが、大分長くなったので今日のところはこの辺で。
続きはまたそのうち。(あるのかわからないけど)