2006/5/18 皐月十八日






「ちょっと、あんた何やってるのよ!」
「いえ、私のやっている行為は違法ではなく、全て法律の範囲内です」
「そんなこと言って開き直る気?」

本日の夕方、なぜか私は街の中でこんな押し問答を繰り広げていた。
何故こうなったのか、少し遡って見てみよう。






昨日の日記で書いたように、今のCANONのデジカメが壊れたので、
当分は昔つかっていたOLYMPUSのデジカメを使うことに決め
今日は久々にそれを持って街に出てみた。

そう、これを使う事がなくなったのもだいたい1年前、
この機体のズームレバーが故障したためだった。
一応修理には出したが、その修理期間を待てずに新規購入したのが今のCANONのS2ISだ。

あの頃は、どうせ新品買うのだったら、修理代が無駄だったなと思ったが
こうやってメイン機が故障した際に、バックアップになるのだったら
あの修理依頼も無駄じゃなかったな、と思った。


しかし、いつもの機体と違って使い辛いな。便利というものは恐ろしい物だ。
1年前までは、これを便利だと思って使いこなしていたのに、
メディアへの記録速度、ズームの遅さ、液晶の明暗対応性など
様々な点において不満を覚える。

やっぱり、S2ISとでは雲泥の差だなあ。
そう思いながら、街の中で実践的撮影を繰り返していた。


ちょうど昔の三和銀行の前で、信号待ちをしていたときだ。
歩みを止められた私は、くるっと振り返って、群集の中にいた女子高生を中心に1枚の写真を撮影した。
私にとっては他愛も無い、息を吸うかのごとく行動であり
この後、何か問題がおきるなんて、全く思ってもいなかった。

信号が青に変わり、歩こうとした瞬間、後ろからおばさんに不意に呼び止められた。
おばさん(以下お)「ちょっとあなた、今この子撮ったでしょ?」
おばさんが私に対して言うのである。隣には女子高生もいる。
AAA(以下A)「はあ、撮りましたよ?それが何か?」
お「撮ったですって、まあぬけぬけと!あんたちょっと待ちなさいよ、いい?」

なんだこいつは?ずいぶんエキセントリックなおばさんだな。
今までも被写体の方と、一悶着あったことはあるが、このような代理戦争は初めてだ。
代理戦争を吹っかけてくるって事は、弁が立つ可能性があるな。
「あなたに拘束する権限はないんですけどね、まあ暇だから付き合ってあげますよ」
と、小馬鹿にする戦略を使おうかと思ったが、まずは下手に出て様子を見よう。

お「あんた勝手に写真撮っていいと思っているの?」
A「世間では色々考え方がありますが、私は良いと思っています」
お「何勝手な事言ってるのよ、あんた何やっている人さ」
A「別に言う必要は無いと思いますが、北海学園の法学部かつ写真部所属ですが何か」

うーん、向こうが高圧的に来ると私の性格上、なかなか下手に出られん。
まあいいや、態度だけでも弱気に見せかけておこうか。

お「法学部の人間がこんなことやってるの?私も北海学園の関係者だけど
  うちの学生がそんな事やっているなんて非常に情けない。
  授業で、勝手に人の写真を撮ってはいけないって教わらなかった?」
A「はぁ?そんな事教わりませんよ。第一、そんな法律無いと申したはずですが」
お「法律になければ、何やってもいいって言うの?」

このおばさん、論理展開がぐちゃぐちゃだな。肖像権という言葉を使う気配もないし。
まあいいや、たいして弁の立つ人間じゃないな。

この程度ではこちらの論理展開を崩すのは無理だと確信、こっちは言いたい事を言うだけだ。
A「何をやっても良いとは言っていません。ただ、法律に無い部分は権利と権利のぶつかりあいです。
  そのぶつかり合いの結果、私の行為は許容範囲だと考えています」
お「警察呼びますよ、警察。」
A「ええ、かまいませんよ。ですが先ほども申したようにこの事を処罰する法律はありません。
  警察を呼ばれても、見解は変わりませんよ。」


ここに来て、女子高生が初めて私に喋った。
女子高生(以下JK)「私の画像、消してください」
これに対しては反対する理由も無いので、素直に従う。
A「了解しました、このとおり消去致しましたので確認願います」

が、そこにおばさんがまた余計な口を挟む。

お「ちょっと、何勝手に消してるの?証拠隠滅を謀る気でしょ?」

だーかーらー、もうね、アホかと、バカかと。消去しろと言ったから消去したんだぞ。
そしてこの写真が残っていたところで何の証拠になるのだ?
そもそも私は、撮影した事自体は認めているのだぞ?
どちらにしろ本気で警察が調べれば、消したデータなどすぐに復元できるんだがな。

きっとこのおばさんは、街頭で無断撮影する事が
痴漢行為や、スカートの中の盗撮などと同じような罪になると思い込んでいるんだろうな。
スカートの中の盗撮事件で逮捕されると言う事例は後を絶たないが、
おばさんの中ではあのニュースのうち、撮影して逮捕という部分だけがクローズアップされて
私がやっているのも犯罪だと信じて疑わないのだろう。
だから私がいろいろ論じているのも、保身のための言い訳に過ぎないと思っているのだろうな。
もちろん私からすれば言い訳ではなく、実際の法体系に法って整然と話しているだけだ。


ちなみに私は、こういった誤解を生むのを避けるため
撮影については、ある程度の自主ルールを設けて運用している。

原則的に目線の高さから、撮影している事が周囲にすぐ判るようにカメラを構える。
これが私の基本ルールだ。

他にも

・至近距離から撮影しない
・フラッシュを浴びせない
・しつこく撮影しない
・被写体の行動を妨げない
・物陰から隠れて撮影しない
・私的な場所では撮影しない
・店舗内など他の人に占有権がある場所では撮影しない
(これはモラルの問題ではなく、法律上も建造物侵入罪となり、処罰される可能性がある)

などがある。

要は、「無視しても実害を被る事は無く、知らない間に撮られていることは無い」
状態にしているわけだ。なぜこうするかは、この先を見ればわかると思う。


おばさんはなぜか、私のカメラをつかんで離さない。
法律云々を言うなら、そういう行為もやめようぜ。
立っているのも疲れたので、私だけ道に座りこんだ。


お「あんた、いつまでこんな事続けるつもりなの?やめる気はないの?」
A「もし法律が改正されたらやめますよ」
お「何それ?じゃああんた、ずっと続けるつもりなの? !”#$%&’※+@* (解読不能)」

肖像権が厳格になり、自由に写真を撮りたいという人の表現の自由よりも
勝手に写真を撮られたくないというプライバシーの権利の方が重視されるようになれば、
法律もその基準に対応し、無断撮影が罪となる可能性がある、
そうなれば私も、法律に逆らってまで撮影を続ける気は無い、という事を言いたかったのだが
どうやらこの人にはそうは理解されなかったようだ。

もっとも、そんな時代が来るならば、既に自由など形骸化している可能性が高いが。


当たり前だが、撮っただけでは、それが世の中に出回る事は無い。
Webサイト公開等されらば話は別だが、その段階に至らなければ何の被害も発生していない。

撮影される段階で、それが不正使用されないという保証や担保はどこにもないと言うのも最もだが
それならば街頭や店舗などに設置されている防犯カメラにも当てはまる。
守られるかどうかは別にするとしても
「この映像は安全の確保や犯罪捜査のみに使われ、それ以外の目的には一切使用しません」
と言うような文句が書かれている防犯カメラなんて見た事が無い。


すると女子高生もしゃがみ込んで、こちらに急接近して私に目を合わせつつ

JK「どうして勝手に撮るんですか、何か友達もあなたに似た人が
   カメラを持って歩いているのを見たって言ってましたよ。」

まあ、普段から私はカメラを常時装備だからな。誰かが見ていてもおかしくない。

お「じゃあこの人、やっぱりいっつも撮影しているのかい」
JK「そのときはカメラをぶらさげて歩いているだけだったみたいです」

ひそかに漏れって有名人なのね、面白い。


ちなみにこの勝手に撮るとか撮らないとか言う事、これは考え方の違いだ。

端的にいえば、撮影されたくないという意思表示において、明確な拒否と言う作為を必要とするか、
許可しないと言う不作為で足りるとするかだ
この場合、私は前者の考え方をとり、女子高生は後者の考え方をとっているわけだ。
どちらの考え方でも、明確に拒否した人間を撮影する事はご法度で、
明確に撮影許可した人間を撮影する事は可能だということは一緒なのだが、
その中間、何の意思表示もしていない人間をどう取り扱うかで違ってくる。

私の基準では、明確な拒否の意思表示があれば勝手に撮影はしない。
しかし、不作為においては拒否の意思表示を汲み取る事はできない、
つまり積極的拒否がなければ、暗黙の了解とまではいわなくても
被写体の権利を著しく侵害したとは考えないという考え方だ。

逆にこの女子高生は、撮影されたくないと言う意思表示は不作為で足りると考えているのだろう。

世間一般の人達がどのように考えるのか私は知らないが、
過去の肖像権がらみの判例では、公の場においては前者、すなわち私の考え方の方が採用されている。
今回も公道上であることを鑑みると、この基準が適用されることに瑕疵はないだろう。


JK「何でこんな事をしているんですか!悪い事をしたとは思わないんですか?」
A「気を悪くされたのでしたら謝ります。しかしこれが悪いことだとは思いません」

私がもう少し、女の子と融和した人生を送ってきたなら、
ここまでガチガチに法律論を振りかざす事もなかっただろうけどな。
いや逆か、こうやって法律だの規則だの理屈ばかり先行させるから、女性と疎遠になるのだ。


お「あんたなんか身分証明書持ってないの?出しなさいよ!」
A「こちらに身分証明書の提示を要求するのでしたら、まずそちらが提示するべきではありませんか?」
お「なんで私が身分明かす必要があるのよ!!」
A「ではこちらもそのように考えさせていただきます」

いよいよ自己矛盾を始めた。だめだこりゃ、話にならないや。
こっちが法律論で冷静に対応しても、相手が感情的になっている。
頼むから早く警察来てくれ。そろそろ疲れてきたし時間の無駄だ。
正直こんな事で、警察様の手を煩わせるのは不本意なんだけどさ


お「まだ警察来ないの?」
JK「さっきから呼んでるんですけどね、もう一回かけてみます」
A「警察時間かかるようでしたら、いっそ警察署まで行きませんか?
  ここから西へ歩けば、すぐに中央警察署ですよ」

このセリフを行ったとき、おばさんはポカーンとしていた。
私自ら警察に行く事を打診するのは、自分に正義があると信じるおばさんにとっては不可解なのだろう。
しかしちょっと視点を変えてみれば私が警察の介入を希求する理由は明瞭である。
だって、このおばさん相手じゃ、まともに会話が成立しないんだもん。

ちなみに、これをネタにして日記に書いていることからも解るように
私には反省どころか悪びれる気持ちなど全くない。
むしろ普段話す機会の無い女子高生と話せてラッキーとさえ思っている。
こんな人間は、本来なら無視しておくのが一番無難かつ無害だ。
たいていの人間は利口だからそれをわかっている。



警察官が2人来た。50代前半くらいのベテランと、20代後半だと思わしき若手の2名。
前者を警官B、後者を警官Cとしようか。


警官B「で、どんな風に撮られたって?スカートの中とか?」
JK 「いいえ、そうじゃなくて、全身を」
警官B「どんな感じで」
JK 「前を歩いているこの人が、カメラを構えていてです」
警官B「で、その写真はまだ残っているの?」
A  「女子高生の申し出に従って既に消去済です」

警官C「ああ、なんだそうなの。まあいいや、5分くらいで終わるからちょっとこっちきてね」


まあ、軽く説教されるんだろうなあと思ったら、若い警察官のセリフは私の想像の斜め上を行く物だった。


警官C「イタリア刑法だと、他人に見られるような格好をしていた方が悪いんだけどさ、
    本官はどちらかというとこの考え方の方が正しいと思っているんだ、
    ちょっと前にも、すごく短いミニスカートを穿いた女性が、
    エスカレーターのところで、中を見られたとか言って呼び出されたんだけど
    俺はそいつに『そんな見られるような格好をしている方が悪い』って説教したよ」

そしてその後、続けて
「迷惑防止条例は知っているかい?」
と問いかけてきた。

北海道の場合はこうだ



何人も、公共の場所又は公共の乗物にいる者に対し、正当な理由がないのに、
著しくしゅう恥させ、又は不安を覚えさせるような次に掲げる行為をしてはならない。
 (1) 衣服等の上から、又は直接身体に触れること。
 (2) 衣服等で覆われている身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
 (3) 写真機等を使用して衣服等を透かして見る方法により、
    衣服等で覆われている身体又は下着の映像を見、又は撮影すること。
 (4) 前3号に掲げるもののほか、卑わいな言動をすること。
 2 何人も、公衆浴場、公衆便所、公衆が使用することができる更衣室
   その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態の人の姿態を、
   正当な理由がないのに、撮影してはならない。



条文暗唱まではしなかった物の、知っている事を匂わせる発言をすると、警察官Cもそれに対応して

「まあ君の場合は特定の人間を付け回したわけでもないし、
 ただ街の中で偶然通りがかった人を撮影しているだけだろうから
 法律的には何の問題もないし、警察がどうこう言う問題でもないんだけどね。
 ただ、市民から通報があれば、来ないわけにもいかないんだよね。
 ともかく法律上の瑕疵はないとはいえ、実際にこうやってトラブルが起きているわけだしさ、
 一応そこのところ気をつけて欲しいんだ。」

警察官は更に続ける。

「そしてさ、これは君にアドバイスなんだけど、
 撮影していて怒られたら、 まずはごめんなさい、だろ。
 あの女子高生、法律云々言う君に相当怒っていたぞ。
 そういう風に言われても、その後の対応次第で
 例えばあなたが綺麗なのでつい撮影してしまいましたとか、言えば丸く収まるんだよ。
 それを違法じゃない、合法だなんて言われたら、そりゃ怒りもするでしょう」

そして最後に警察官は一言。

 


「君は法律の事はよく勉強しているみたいだけどさ、もう少しその情熱を使って女心も勉強しようぜ」




ただ説教されたり、上から高圧的に物を言われるより100倍は効いた。

日本の警察官もまだ捨てた物じゃないな。