2006/11/17 霜月十七日





次の文章を読み、各問に答えなさい。




転売 --買い取った物を、さらに他に売り渡すこと--


いつの世も、転売により利益を得る人間は後を絶たない。
と言う言い方をすると、転売が悪いと言うイメージからの観点となってしまうか。

今現在進行形の転売戦場はソニーから発売されたPS3だが、
その前にはニンテンドーDS、日本シリーズのチケット、愛知万博のチケットなど様々だ。
入手しづらい物が益々入手しづらくなると言う事で叩かれがちな転売行為だが、
本当に転売行為は悪い事なのだろうか?


安く買って高く売る、これは商取引により利益を上げる基本だ。
ちょっとゴヘイがある言い方だが、小売店は卸売店から安く買った商品を消費者に高く売り、
卸売店は生産者から安く買った商品を小売店に高く売る。
どちらも最初にあげた転売の定義に当てはまっているが、正当な商行為である。
もしこれらの行為に対して客が、
「おい、転売で儲けているんじゃねぇ!生産者から仕入れた価格で販売しろ」
なんて言おうものなら、頭のおかしい人扱いされるのが関の山だ。

さて、では叩かれる転売と叩かれない転売があるのは何故だろう?
ここで少し、転売する事により利益を上げるファクターを考えてみる。
すると、転売で儲けるために取引されるものは、次にあげるどちらかの要素を含むことが多いことがわかる。
転売で利益を上げるためには、仕入価格より売却価格のほうが高くなければならないからだ。
(なお、ここで言う『転売』はいわゆる“商業簿記”で取り扱う分野に限る。
 加工したり、付加価値をつける“工業簿記”分野は、単純な『転売』とは言えないからだ)


単純に考えると、人、場所、時間、数量などの要素が変わることによって価値が変動する物、
もしくは構造的に需要と供給の関係で対応する事が出来ない、
つまり需給曲線にて価格を調整できないものが、転売の目的物として格好の対象となり得る。
市場で売買されている物の殆どが、細かく素因数分解してみるとこのどちらかの要素を持っていると思われる。


前者のパターンは取引される条件によって価格が異なるのを利用して、差益を得るという考え方だ。
人、場所、時間、それぞれについて例を揚げてみる。

まず人によって価格が異なる場合。これは人によって物の価値が絶対的、
もしくは相対的に異なるのを利用した手法だ。
ある人にとっては不要であるものを安く譲ってもらいそれを欲しがっている人に対して高く売るなどであり
店舗で言えば、リサイクルショップなどがこの営業形態をとっている。

物の存在する場所によって価格が異なる、
これはある地方では安く売っているが、別の地方に行くと高価だったり、もしくは売っていない物を
安く売っている地方で買って、高く売れる地方に持っていく。
大航海時代の貿易を始めとして、昔はよく行われていたが
物流の進歩や情報化社会の進展により地域間の価格差が小さくなった今ではそんなに多くないだろう、
尚、ここでは輸送するという行為は、付加価値をつける行為と考える。

時間によって価値が異なるケース、
これはリアルタイムで価格が変動する株や外為、先物などにおいて安い時に買って高い時に売る取引、
もしくは、何らかの物品を将来の値上がりを見込んで買って寝かせておき
希少価値が出てきた頃に売り捌く。主に投資家がこの方法で利益を得ている。
後者は特に長い時間がかかるため、受け取れるはずの金利を考えるとあまり利益がない、と言う事もあり得る。

数量、つまりスケールメリットが得られるケース。
物を大口で購入すると、販売者の利益やフズイ費用などの関係で、小口で買うのに対し有利な価格で購入できることが多い。
よって大口で購入し、それを小口に分けて販売する。卸売店、小売店などのビジネスモデルである。


こんなところだろうか。
これらの取引を行って糾弾された人というのはあまり聞かない。
思いつくのは、せいぜいポンドを高く売って安く買い戻すと言う投機的売買で、
ポンド危機を起こしてイギリスの経済を壊滅的させたジョージ・ソロスくらいだ。


さて、後者のパターンはどうだろう?

まず最初に、需給曲線と言う言葉は皆さんご存知だろうか?

需要と供給の関係においては、需要増及び供給減は価格上昇を引き起こし、
需要減及び供給増は価格下落を招く。経済学の基礎だな。
言い換えれば、需要量と供給量が決まれば、自ずと適切な価格が決まるわけだ。

では、これらが働かない時はどうして転売により儲ける事が出来てしまうのか?
先の日本シリーズのチケットを例にとって考えてみる。

日本シリーズのチケットにおいては、常に需要>供給の関係が成り立っていた。
この状態を放置した場合は価格は自然と上昇傾向になるのだが
日本シリーズのチケットにおいては、正規の販売価格が上昇すると言う事はない。
となればこの需給曲線を動かす他の方法としては、
チケットの供給量を増加させるという方法が考えられるが、
これは野球場の収容量という物理的な制約があるため、理論的には出来ても現実には不可能である。

つまり需要に対して供給が少ないが価格は上昇しないと言う状態が、
正規販売価格と需給曲線が均衡する価格のカイリを生む。
いくら品薄になれど上昇する事のない正規販売価格で買って、
需給曲線均衡点付近での取引が行われるオープンな市場で売れば簡単に利益が出るわけだ。


世間はこの行為を、チケットが品薄なのに付け込んで儲けようとする悪質な行為だ、
本当に欲しい人が手に入らなくなる、などと非難する。
しかし、こういった経済的に脆弱な構造を放置している事には問題はないのだろうか?

業界が本気で転売を封じ込めようと思えば、対策はそう難しくない。
需要と供給が均衡する点まで価格を上げてしまえばいいのだ。
例えば日本シリーズのチケットなら、会場に入れる人数は最初から決まっているのだから
オークション形式にして、高い値段をつけた順番にチケットを販売すればいいのだ。
これならば2つの価格の乖離は是正され、転売によって得る利鞘は消失する。

最もこれを行えば、チケットの価格は確実に高くなるだろう。
そのことにより、新たに転売とは別の様々な非難を浴びる可能性は出てくる。
が、しかし。それが正当な資本主義というものではないだろうか?

日本一を決める試合を見たいと言うならば、その気持ちをお金で表せばいい、
人より早く最新のゲームで遊びたいなら、人より多く資金を投下すればいい、シゴク単純だ。
世間では悪徳商法のように言われる転売人は、むしろ現行制度において切り捨てられる、
“高い金を払ってもいいから試合を見たい”と言う、資本主義経済においては当然な欲求に対する
ホカン的な役割をしているとも考えられるのではないか。
ただ、その差益が転売人に流れている点はあまりよろしいとは言えないが。


ちなみに転売は、私の利益供給源の1つでもある。
今回のPS3の件でも、予定では少々利鞘を稼ぐつもりだった。
(在庫を抱えるのが嫌な小心者なので、1個売って終わりにするつもりだったが)
しかし、今回のPS3の市場は、仕手筋が大量に介入しており
ハイリスクの割にはリターンが合わないのでやめた。

ここで言う仕手筋とは2ちゃんねらーの事で、
彼らはヤフーオークションに出品されたPS3をことごとく落札し、
その後の取引を行わないと言う手法において、市場を攪乱させているのだ。
法律的にはこのような行為はいけないのだが、
架空アカウントによって攻撃してくる彼らから資金を回収するのは、現実的に困難だ。

転売行為についてのモラルを説いても聞く耳もたずの転売人に対する実力行使のつもりだろうが、
そもそも転売行為の背景には、現行制度と本来の資本主義経済の間の歪みがあり、
それの是正と言う根本的な解決をはからない限り、
転売人たちはまた別の戦場で同じことを繰り返すだけだ。



そういえば、今現在私が行っている転売には、こういうものもある。

「大学の写真部において長尺フィルムを購入して分配し、部員に安く販売する」

この場合のフィルム1本辺りの仕入コストは販売価格より高く、
仕入価格>販売価格という点では他の転売と異なるが、一番最初に明示した転売の定義には当てはまる。
(少々、加工貿易的な側面もあるが)
もちろんこれは利益を求めるためにやっているのではなく、
部員に対する福利厚生の一環として行っているものである。



下線部ア〜オの漢字と同じ漢字を含むものを次の1〜5の中から選べ。

ゴヘイ  1 [ヘイシャ]の社員      2 列車と[ヘイソウ]する   3 [オウヘイ]な態度 
     4 [ヘイソク]前線       5 [カヘイ]を鋳造する

フズイ  1 税金を[フカ]する      2 大学[フゾク]の高校    3 [フワク]の年を迎える
     4 両者が[フゴウ]する     5 軌道を[フセツ]する

カイリ  1 [リガイ]関係人と調整する  2 空域から[リダツ]する   3 [リカ]に冠を正さず
     4 [ヒョウリ]一体の構造    5 [カンリ]として任命される

シゴク  1 母危篤[シキュウ]戻れ    2 [ヒッシ]の救助も及ばない 3 [シサン]を運用する 
     4 あられもない[シタイ]を晒す 5 公的[シエン]に着手する

ホカン  1 [カンリョウ]主導の政治   2 [カンダン]の差が大きい  3 [カンサン]とした街角
     4 上司に[カンゲン]する    5 任務を[カンスイ]する



経済的に脆弱な構造 とあるが、どういった構造の事を指すか。
その説明として適当なものを、1〜5の中から選べ。


1 野球場の収容量という物理的な制約があり、供給量の増加を図ることができない構造

2 常に需要が供給を上回る状態が続いており、価格の上昇が止まらないという構造

3 需要に対して供給が少ないが価格は上昇しないという、需要と供給の関係を無視した構造

4 需要増及び供給減は価格上昇を、需要減及び供給増は価格下落を招くという構造

5 需要量と供給量を変化させる事により価格が変動し、簡単に転売で利益が出る構造




現行制度と本来の資本主義経済の間の歪み とあるが、具体的に言うとどういうことか?
その説明として最も適当なものを、1〜5の中から選べ。

1 理想的な資本主義経済においては、価格は需給曲線の均衡点付近に収束するはずなのに
  転売人の暗躍により、それを遥かに超える価格での取引がなされてしまうということ。

2 資本主義経済において、需要が供給を上回る状態において価格は自然上昇するものであるが、
  価格を無理に据え置いているために、市場における取引価格の差異となって現れるということ。

3 資本主義経済においては、価格は自然と上昇傾向になるのに対し、
  現行制度ではそれに反するように価格の下落を誘導しているということ。

4 資本主義経済においては、安く買って高く売ると言う転売人の行為は真っ当な商行為であるのに、
  現行制度においては悪徳商法であり、非難されるべき行為であるから。

5 資本主義経済において転売人の行為は、資本主義における当然な欲求を充足させるための必要悪だが、
  現行制度においては、モラルを説いても聞く耳もたずの転売人が後を絶たないから。




センター試験風に問題を作ろうと思ったが、3問目を作り終えたところで力尽きた。
そもそも私が書いた文章の質が良くないので、問題を作りづらい。

最初の漢字は1問2点、あとの2問は1問5点の計20点満点という事で。